2.貸借科目について

前項の「1.会計業務の基礎と会計職人」でも説明しましたが、 事業の評価は、どれだけ儲けたか、どのくらい財産が増えたか、を数値化することに より行われます。
その書類が確定申告の青色申告決算書の「損益計算書」「貸借対照表」ですが システムではこれらに対応するものとして「損益科目表」「貸借科目表」を 用意しています。
これらの表は「損益計算書」「貸借対照表」と全く同じ科目を持ち、 この表で自動計算や調整ができるようになっています。
この表の内容で「損益計算書」「貸借対照表」を自動印刷します。

「損益科目表」は当期の損益を計算するためのもので、お金が入ってくるもの(収入) 出ていくもの(経費)に関するなじみのある科目が用意してあり、これは まだわかりやすいと思います。
しかし「貸借科目表」は当期の期初と期末の財産(資産と負債・資本)を 計算するためのものですが、普段はなじみのない科目もあり、青色申告の 初心者にとってはここでわからなくなることが多いのではないでしょうか。
さらに一般の会計システムでは、これら2つの書類の科目を集計しやすいように、 取引明細を「仕訳」と呼ばれる借方、貸方を使った方式で記帳します。 これもまたわからなくなる原因だと思います。

しかし「貸借対照表」は青色申告特別控除65万円を受けるためには、 作成が義務付けられています。
青色申告初心者の方も、「会計職人」ではこれを極力簡単に作成するために 様々な工夫を凝らしてありますので、以下を参照いただき、「貸借対照表」を 作成しましょう。

まず、「会計職人」では日々の取引を「資金繰表」において、「仕訳」ではなく 通常の言葉で登録することができます。

また、固定資産の減価償却費や借入金、敷金および日々の取引で動く現金や預金残高は、 実際には「貸借科目表」に関係するのですが、システムではこれを、「貸借科目表」に 自動集計します。
従ってわかりにくい「貸借科目」をユーザーはあまり意識しなくとも結構です。

しかしながら次のような場合は、「貸借科目」を使って「資金繰表」に登録する 必要があります。
この時「貸借科目」は、「資金繰表」の登録画面の「科目」欄または「現預金」欄に 登録します。
(1)期をまたぐ未収入金や前受金がある場合
(2)長期の保険がある場合

また運用の初年度のみ、次のことをする必要があります。
(3)「貸借科目表」の期初残高の登録

以下に、上記の場合の処理方法と、「(4)貸借科目についての解説」を 記載します。

(1)期をまたぐ未収入金や前受金がある場合

<未収入金の処理方法>

家賃が入金されずに期をまたぐ未収入金が発生した場合の処理方法です。
損益上は、この場合でも家賃収入として計上する必要があります。
同時に、貸借科目の未収入金にも計上が必要となります。

以下、具体的な「資金繰表」の登録例です。(事業欄は省略します。)
未収入金発生時(期中):
日付欄は発生日、科目欄は「301家賃・共益費」、収支は「収入」、金額は未収入金額、
現預金欄で「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「6未収賃貸料」を登録

このように登録すると、この金額は「損益科目表」の自動計算で「1賃貸料」に集計され、 また「貸借科目表」で「6未収賃貸料」の期末残高をプラスします。
また実際のお金の出入りはないため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄は変わりません。

未収入金回収時(翌期):
日付欄は回収日、科目欄は「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「6未収賃貸料」、 収支は「収入」、金額は未収入金額、現預金欄は通常使う現金または預金口座

このように登録すると、この金額は「損益科目表」には集計せず、「貸借科目表」で 「6未収賃貸料」の期末残高をマイナスします。
また実際のお金の入金があるため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄はプラスされます。

※試算期間以前に未収入金が発生している場合
たとえば試算期間の開始年度が2013年で、2013年の確定申告をする場合で、期初に未収入金が ある場合は、次のように「貸借科目表」の「6未収賃貸料」の期初残高を登録します。
・「貸借科目表」の「6未収賃貸料」の行にマウスをあて、右クリックして[科目内容修正]を 選択します。
・開いた操作画面の、該当事業者の期初金額欄に、未収入金の残高を入力します。
・手入力対象は[自動計算]をチェックします。確認してください。
・[修正]ボタンをクリックすると期初金額が登録されます。
・期初残高を登録したら「期初残高自動計算」(自動計算選択は不要)を実行します。

<前受金の処理方法>

例えば翌期1月分の家賃を当期12月に受け取る場合の処理方法です。
損益上は、当期の家賃収入としては計上しません。
しかし、貸借科目の前受金には計上が必要となります。

以下、具体的な前受金の登録例です。
1)「貸借科目表」の前受金の科目登録
国税庁から提供される青色申告決算書の貸借対照表には「前受金」の記載が ありません。そこで「資金繰表」に前受金の登録をする前に、この科目の名称を 登録します。
(システムのバージョンによっては、あらかじめ「29前受金」が登録されています。 この場合、この操作は不要です。)
「貸借科目表」の名称が空白の行に「前受金」を科目として、次のように登録します。
・前受金は「負債」の科目ですので、科目NO29以降の名称が空白の行に登録します。
 ここでは例えば科目NOが29の行に登録します。
・マウスを29の行にあて、右クリックして[科目内容修正]を選択します。
・開いた操作画面の、科目欄に「前受金」と入力します。
・手入力対象は[自動計算]をチェックします。確認してください。
・[修正]ボタンをクリックすると「29前受金」が登録されます。

2)「資金繰表」の登録例です。(事業欄は省略します。)
前受金発生時(期中):

日付欄は発生日、科目欄は「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「29前受金」、 収支は「収入」、金額は前受金額、現預金欄は通常使う現金または預金口座

このように登録すると、この金額は「損益科目表」には集計されず、 「貸借科目表」で「29前受金」の期末残高をプラスします。
また実際のお金の入金があるため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄はプラスされます。

前受金の家賃計上時(翌期):
日付欄は計上日、科目欄は「301家賃・共益費」、収支は「収入」、金額は前受金額、
現預金欄で「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「29前受金」を登録

このように登録すると、この金額は「損益科目表」の自動計算で「1賃貸料」に集計され、 また「貸借科目表」で「29前受金」の期末残高をマイナスします。
また実際のお金の出入りはないため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄は変わりません。

※試算期間以前に前受金が発生している場合
たとえば試算期間の開始年度が2013年で、2013年の確定申告をする場合で、期初に前受金が ある場合は、次のように「貸借科目表」の「29前受金」の期初残高を登録します。
・「貸借科目表」の「29前受金」の行にマウスをあて、右クリックして[科目内容修正]を 選択します。
・開いた操作画面の、該当事業者の期初金額欄に、前受金の残高を入力します。
・手入力対象は[自動計算]をチェックします。確認してください。
・[修正]ボタンをクリックすると期初金額が登録されます。
・期初残高を登録したら「期初残高自動計算」(自動計算選択は不要)を実行します。

(2)長期の保険がある場合

<長期保険の処理方法>

長期の保険の金額を一括払いしている場合の処理方法です。
この場合、支払金額がすべて当期の経費とはなりません。各期に按分した 金額が経費となります。
一括支払い時は貸借科目の前払金に計上します。
また各期に按分した金額を損益上の経費として計上します。

以下、具体的な長期保険の「資金繰表」の登録例です。(事業欄は省略します。)
一括支払い時(期初):
日付欄は支払日、科目欄は「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「9前払金」、 収支は「支出」、金額は支払金額、現預金欄は通常使う現金または預金口座

このように登録すると、この金額は「損益科目表」には集計されず、 「貸借科目表」で「9前払金」の期末残高をプラスします。
また実際のお金の入金があるため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄はマイナスされます。

経費計上時(各期、通常は期末):
日付欄は計上日、科目欄は「215保険料」、収支は「支払」、金額は各期按分金額、
現預金欄で「貸借科目を使う」をチェックし、貸借科目の「9前払金」を登録

このように登録すると、この金額は「損益科目表」の自動計算で「6損害保険料」に集計され、 また「貸借科目表」で「9前払金」の期末残高をマイナスします。
また実際のお金の出入りはないため、「資金繰表」の現預金口座の残高欄は変わりません。

※試算期間以前に一括支払をしている場合
たとえば試算期間の開始年度が2013年で、2013年の確定申告をする場合で、期初に一括支払の残高が ある場合は、次のように「貸借科目表」の「9前払金」の期初残高を登録します。
・「貸借科目表」の「9前払金」の行にマウスをあて、右クリックして[科目内容修正]を 選択します。
・開いた操作画面の、該当事業者の期初金額欄に、一括支払の残高を入力します。
・手入力対象は[自動計算]をチェックします。確認してください。
・[修正]ボタンをクリックすると期初金額が登録されます。
・期初残高を登録したら「期初残高自動計算」(自動計算選択は不要)を実行します。

(3)「貸借科目表」の期初残高の登録

「会計職人」の運用を始めた初年度に1度だけ「貸借科目表」の期初残高を 登録する必要があります。

期初残高の登録は、基本は手入力で登録しますが、次の科目は自動計算の機能があります。
メニューは「期初残高自動計算」です。
1)減価償却対象固定資産…「減価償却表」が既に登録されている場合その表から自動計算します。
2)借入金残高…「融資返済表」が既に登録されている場合、その表から自動計算します。 融資返済表以外にも借入金がある場合は手入力となります。
3)預り金(敷金)残高…「入居者情報」で入退去日と敷金が既に登録されている場合、その表から 自動計算します。
4)棚卸資産…一般事業を行う事業者で「損益科目表」の期首/期末商品が登録されている場合、 その表から自動計算します。

期初残高の登録方法は、まず自動計算でない科目を次のように手入力します。
・「貸借科目表」の該当科目の行にマウスをあて、右クリックして[科目内容修正]を 選択します。
・開いた操作画面の、該当事業者の期初金額欄に、期初残高を入力します。
・手入力対象は[自動計算]をチェックします。確認してください。
・[修正]ボタンをクリックすると期初金額が登録されます。

次に「期初残高自動計算」で自動計算可能な科目の期初残高を自動計算します。
「期初残高自動計算」の画面で、対象の項目をチェックし、[実行]をクリックし、 確認画面で再度[実行]をクリックすると実行します。

以上で期初残高登録は終了です。
翌年度以降は、確定申告の最後に行う「年度更新」処理で、期末残高が期初残高に自動繰越 されますので、期初残高の登録は不要です。

※「期初残高自動計算」後に手入力で期初残高を修正した場合は、必ず「期初残高自動計算」 (この場合自動計算科目の選択は不要)を再び実行してください。
「期初残高自動計算」では、「元入金」(後述)も資産側と負債側の合計の差額から 自動計算しています。

(4)貸借科目についての解説

<減価償却対象の固定資産>

減価償却の対象となる固定資産は、不動産事業用も一般事業用も「11建物」〜「15工具器具備品」までの 5科目です。
これらは「減価償却表」で減価償却の情報を登録する時に「貸借科目(内容)」で選択します。
「減価償却表」で登録された各期の減価償却費は、「損益科目表」の「8減価償却費」に自動集計されます。
また同様に各期の未償却残高が「貸借科目表」の「11建物」〜「15工具器具備品」までの期初/期末残高と なります。
減価償却費や未償却残高については「資金繰表」では全く登録する必要はありません。

<元入金について>

元入金は企業でいえば「資本金」に該当します。
「貸借科目表」では、「期初残高自動計算」時に、資産と負債の合計金額は一致しているはずなので、 そこから逆算して元入金を自動計算します。
『重要!』… 期初残高を入力したら、必ず「期初残高自動計算」(自動計算選択は不要)を行ってください。

また「元入金」は期末残高に期初残高がそのまま移行されます。

<事業主借/貸について>

「事業主借」「事業主貸」の科目は、例えば不動産事業を運営する中で、事業主個人や生活費から 資金を借りたり貸したりする場合に使います。
「会計職人」では、これらの科目を「科目表」に設定して、ユーザーがその都度「資金繰表」に 登録する運用も可能ですが、通常この運用は明確に事業の財布が分かれていてかつ常にそれを 意識していないと困難です。(それでも期末は合わないケースが多発します。)
そこで、システムでは、これらの科目も自動計算が可能になっています。
「貸借科目表」の「期末残高自動計算」の操作画面で自動計算するかどうかを選択できます。 (初期値は自動計算です。)

なおこの自動計算は、「事業主借」「事業主貸」以外の科目を集計後に、資産、負債の差額から 計算します。
自動計算する場合は、結果の妥当性をご確認ください。

<青色申告控除前の所得金額>

この科目は「損益科目表」で自動計算した結果からデータをもってきます。
従って、「貸借科目表」の「期末残高自動計算」をする前に「損益科目表」が自動計算されていることが 必要です。